
2023年の全仏オープン女子ダブルスに出場した加藤未唯選手/アルディラ・スチアディ選手(インドネシア)が3回戦で失格となりました。
失格の理由は、ボール返却のために加藤未唯選手が打ったボールが、ボールガールに直撃。
ボールガールが7,8分ほど泣いていたため、事態を重く見た運営側が失格を言い渡したというもの。
この件に関して、ネット上では
「審判が警告としたのに、対戦相手の抗議で失格になったのはおかしい!」
「対戦相手が執拗に抗議した!」
といった声が挙がっています。
そもそも、なぜ処罰が変わったのでしょうか?
対戦相手の執拗な抗議とは??
といった疑問があるかと思います。
しかし、ネット上の大半の動画はほとんどが切り抜きで、実際のところどうだったのか、真相が見えてきません。
本記事では、対戦相手が実際に審判に抗議した映像を発見しましたので、そちらを元に今回の騒動の詳細を紹介したいと思います。
加藤未唯が失格となった経緯

全仏オープン女子ダブルス3回戦。
第2セット、第5ゲームでの出来事でした。
時系列は以下のとおりです。
- 加藤未唯選手が、自陣の落ちているボールをラケットですくい上げ、バックハンドで相手コートのボールガールの方へ返す。
- そのとき、ボールガールはサーブを打つ選手にボールを渡そうとしており、向かってくるボールに気づくのが遅れた。
- ボールはボールガールの首元付近に当たり、観客席から「おおっ!」と小さなどよめきが起こる。
- 審判はすぐにボールガールと加藤選手に確認を取り、「ボールガールがケガをしていないこと」、「加藤選手は故意ではなかったこと」から、警告とした。
- 同時期、どよめきに気づいた対戦相手のマリエ・ブズコバ選手(チェコ)とサラ・ソリベス・トルモ選手(スペイン)が審判のもとへ向かう。
- 審判は警告の理由を対戦相手側に伝えたが、それでも抗議を続けたため、審判がボールガールのもとへ行って話を聞き、スーパーバイザーに連絡を入れる。
- スーパーバイザー到着後、審判が説明し事態を収めようとするが、スーパーバイザーはレフェリーを呼ぶ。
- レフェリーは審判、ボールガール、加藤選手たちから話を聞き、最終的に失格を告げる。
要点としては、
・審判は当初、警告と判断
・審判は抗議に来た対戦相手に警告の経緯を説明するも、対戦相手側は納得せずに抗議を続ける。
・呼ばれて来たレフェリーは、審判、ボールガール、加藤選手たちから話を聞いただけで、ビデオ確認等はせずに失格を告げる。
【動画】対戦相手の抗議は30秒程度だった?
さて、ネットの記事では「対戦相手が執拗に抗議を続けた」と表現されています。
執拗な抗議とはどの程度の時間だったのでしょうか。
こちらの動画を見る限り、「最初の」主審への抗議は30秒程度だったようです。(1:00頃~)
しかし、彼女らの抗議は最初から「This is default!(これは失格よ!)」と失格するよう主張しています。
主審は、「No, No(違う)」とし、警告の理由として「ボールガールがケガをしていないこと」、「加藤選手は故意ではなかったこと」を説明します。
しかし、その後も「わざとじゃないの?」、「彼女は泣いている」、「血も出ている」などと抗議を続けます。
ここで、主審はボールガールへ話を聞きに行き、加藤選手も謝りに行きます。
抗議の時間は30秒程度ではありますが、この主審の説明を押し切って主張を続けたことが”執拗”と表現されたのだと思います。
さらに、この後スーパーバイザーやレフェリーが出てきますが、彼らに対しても”執拗に”主張したようです。
審判が警告し、レフェリーが失格を宣言
まず、主審は試合中のジャッジを行い、スーパーバイザーやレフェリーが選手間の揉め事や試合進行について判断を下します。
審判が裁量権を持つのはあくまで、試合中の出来事まで。選手間の揉め事や試合進行に関わることになると、そこはスーパーバイザーの領域だからだ。
加藤未唯の「失格問題」で最も重要なこと…レフェリーは実際に何が起きたか映像を見ることなく、判決を下していた|テニス|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva (shueisha.co.jp)
今回、主審は「警告」としています。
警告の理由は、「ボールガールがケガをしていないこと」、「加藤選手は故意ではなかったこと」。
個人的には、妥当な処分だと思われます。
しかし、相手側の抗議でボールガールが泣いていることに気づいたようで、様子を見に行き、スーパーバイザーに連絡します。
この辺りから雲行きが怪しくなります。
そして、話を聞いたスーパーバイザーはレフェリーに連絡し、スーツを着た男性が登場します。
レフェリーも主審、泣いているボールガール、加藤ペアから話を聞き、「失格」と判断します。
なぜ「失格」となったのでしょうか?
こちらの記事によると、
「彼女は泣いている。意図的だったかどうかは関係ない。あなたがポイント間に打ったボールが誰かをケガさせたなら、それはあなたの責任だ。それで試合は終了になる」
スーパーバイザーが、加藤たちにそう説明した。
加藤未唯の「失格問題」で最も重要なこと…レフェリーは実際に何が起きたか映像を見ることなく、判決を下していた|テニス|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva (shueisha.co.jp)
当たったボールガールには申し訳ありませんが、これだけのことで失格とは、すごく厳しい処分のように思えてしまいます。
なお、ボールが当たってからレフェリーが到着するまで15分近く泣いていたようです。
痛さよりも、当たった衝撃や事態がどんどん悪くなることなど、相当ショックが大きかったのかもしれませんね。
失格の理由はノバク・ジョコビッチと同じ?
こちらの記事によると、レフェリーは加藤選手ペアに「これは、ノバク・ジョコビッチが失格になった件と同じだ」と伝えたそうです。
ノバク・ジョコビッチ選手が失格になったのは、2020年の全米オープン。
試合中、相手にブレークされたことにいらだち、後方を確認せずに打ったボールが線審の女性の喉元を直撃。
この時もレフェリーが状況を確認し、最終的に失格を決定しています。
そして、この時の全米オープンのWebサイトでは次のように説明しています。
A default is one of tennis' rarest punishments, if only because of the type of on-court actions that are considered a catalyst for it. Tennis matches are adjudicated by a code of conduct, and the punishment for violating the code—through actions such as ball abuse, racquet abuse, unsportsmanlike conduct, and other similar offenses—accumulate typically over the course of a match.
The first code violation is a warning, the second comes with a point penalty, and the third comes with a game penalty—with the offending player subject to default at the referee's discretion at any time should the code be violated again thereafter. However, when a situation such as Sunday's arises in a match, the Point Penalty Schedule may be bypassed in favor of an immediate default.
By the Book: Understanding the rule behind Djokovic's default - Official Site of the 2023 US Open Tennis Championships - A USTA Event
要約すると、
テニスの試合は、例えば「ボールの乱用」、「ラケットの乱用」、「スポーツ精神に則らない行為」があった場合、規則を違反したとして罰則が科せられる。
通常は、「最初の違反で警告」、「2回目の違反でポイントペナルティ」、「3回目の違反でゲームペナルティ」が科せられる。なお、その後も違反を犯した選手には、レフェリーがいつでも「失格」とすることができる。
しかし、今回の場合は、このようなステップを飛ばして即失格という判断となった。
としています。
レフェリーは失格の理由として、
"Intent is part of the discussion, but there are two factors: one is the action and [the other] the result. The action, while there was no intent, the result of hitting the line umpire and [her] clearly being hurt is the essential factor in the decision-making process here."
By the Book: Understanding the rule behind Djokovic's default - Official Site of the 2023 US Open Tennis Championships - A USTA Event
としており、
「線審にボールが当たり、明らかに負傷があったという事実が、失格を判断する過程で重要な要素となった」
と結論づけています。
これが今回の加藤選手の件にも適用されるとなると、ボールガールに「明らかな負傷」があったのか?となります。
もちろん、加藤選手も同様の質問をレフェリーにしています。
しかし、レフェリーは怪我の有無は答えず、「泣き続けていること=それだけ深刻なこと」と回答しただけだったようです。
「誰かケガをしていますか?」と、加藤たちは問い返す。
すると、レフェリーは「あの子は泣いている。自分がここに来るまで時間がかかったが、それでもまだコート上で泣いていて、泣き止むことができない。それだけ深刻だったということだ」と言い、こうも加えた。
「これは、ニューヨークでジョコビッチに起きた件と同じだ」
加藤未唯の「失格問題」で最も重要なこと…レフェリーは実際に何が起きたか映像を見ることなく、判決を下していた|テニス|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva (shueisha.co.jp)
これでは、加藤選手も納得いきませんよね。
失格のタイミングで対戦相手がほくそ笑んだ?
今回の騒動の1つに、加藤選手ペアが失格となったタイミングで対戦相手がほくそ笑んだと世界中で非難批判が巻き起こっています。
これは本当に加藤選手が失格となるタイミングで笑ったのでしょうか?
また、何に対して笑っていたのでしょうか?
このあたりの真相については、こちらの記事で解説しています。
大会ディレクターの見解「明確にルールブックに書かれている」
6月11日、全仏オープンの大会ディレクターで元女子世界ランク1位のアメリ・モウレスモさんが会見を開きました。
その中で、加藤選手の一件にも言及。
「スーパーバイザーとレフェリーによって決定が下されたもので、彼らは動画を見ずにコートに来て、誰かが報告している事実に基づいて判断を下さなければならない。ボールガールがあんなに長い間泣いているのを見ると、何らかの決断をしなければならない。それから明確にグランドスラムのルールブックに書かれている」
とスーパーバイザーらの判断は規則に則ったものであるとした。
加藤未唯の失格騒動に大会ディレクターが言及「ルールブックに書かれている」 (tennisclassic.jp)
ここでも、規則に則った判断であるとしています。
しかし、グランドスラムのルールブックのどこが該当するのかは明言していません。
「ボールガールが泣いていた」という事実しか見ておらず、「怪我の有無」などには言及されていません。
ここまでの経緯を整理しても、やはり今回の加藤未唯ペアの失格は、「不可解」、「納得がいかない」、「公平公正ではない」と考えざるを得ないように思います。
はく奪されたポイントと没収された賞金は?
今回、加藤未唯選手がはく奪されたポイントと没収された賞金はいくらだったのでしょうか?
はく奪されたポイント:240ポイント(全米オープン3回戦)
没収された賞金:2人で4万3000ユーロ(約623万5000円)
約623万円という賞金を失うのは非常に辛いですね。。。
さらに、罰金として7500ドル(日本円で約107万円)が科されたということですので、かなり厳しい処置であったと思われます。
ポイントがはく奪されていなければ、世界ランキング31位の加藤選手は、世界ランク28位まで上がった可能性があったわけですし。

ポイントと賞金を取り戻したい気持ちはよくわかります。
世界ランク上位になれば、大会のシード権も得られますので、トーナメントを勝ち抜くうえでも重要になってくるわけです。
加藤未唯選手のこの一件がきちんと精査され、加藤選手とアルディラ・スーチャディ選手が納得のいく結果になることを祈りたいと思います。